「エソテリック唯物論が解きあかすキューバ革命の〈近代〉」

日時:2009年12月22日(火)  

時間:16:20から

場所:一橋大学東本館大教室

講師:大杉 高司(一橋大学社会学研究科 教授)

概要:
本発表は、シックスト・ガストン=アグエロの著書『唯物論が解きあかすエスピリティスモとサンテリーア』(1961)が提出した視野から、二〇世紀キューバにおける知の体制を逆照射し、革命がその実現をめざしてきた〈近代化〉プロジェクトの輪郭を浮かび上がらせようとする試みである。ガストン=アグエロは、その生い立ちや知的遍歴を記録からうかがい知ることのできない、いわば無名の思想家-山口昌男にならえば「敗者」-にすぎない。また、エンゲルスやレーニンの科学的唯物論と、サンテリーアとよばれる物神崇拝の間の整合性を論証しようとした著書の内容も、キューバの社会科学者のみならず私たちもまた自明視する「ノーマル・サイエンス」(T・クーン)の視野から眺めるならば、はなはだ荒唐無稽にうつる。しかし、かえってそのことによってガストン=アグエロの著書は、一九五九年の革命勝利を挟んで展開されてきた〈近代化〉プロジェクトを異化し、それが他にありえたどのような可能性を排除しながら自己成型してきたのかを浮かび上がらせてくれる。補助線となるのは、〈近代化〉の試みを「純化」のプロセスとみる、科学社会学者ブルーノ・ラトゥールの見解である。革命政権が達成をめざしてきたプロジェクトも、民俗文化としてのサンテリーアを、政治や経済、そして科学から分離する「純化」の試みであった。しかし「純化」の試みは、つねにその副産物としてハイブリッドな背後領域を作り上げる。共産圏崩壊後一九九〇年代以降のサンテリーア大流行を、このハイブリッドなネットワークの表面化と位置づけ、本発表が提出する暫定的結論とする。