具体的な事例に基づいて、哲学や社会学の高度に抽象的な理論に問いを突きつける。人類学の原動力は自分が収集した事例に対する愛。
なぜ専門に人類学を選んだのですか?
理論的な面白さだけでなく、フィールドワークを通して事例の即物的な面白さを感じることができると考えたことから人類学を選びました。
現在どんなテーマで研究をしていますか?現在の研究テーマに行き着いたきっかけは?
現在はネパールにおけるプロテスタンティズムの展開を研究しています。
高校生の時をプロテスタント福音派勢力が強いアメリカ南東部で過ごしました。現地の人たちにはたいへん暖かく迎え入れてもらいましたが、宗教の壁を強烈に意識させられることがしばしばありました。このことから宗教に関心を抱き、修士課程ではアメリカのキリスト教原理主義について研究を進めてきました。
修士課程で研究を進めるうちにプロテスタンティズムの世界展開に関心を抱くようになり、博士課程ではそれを研究テーマにしました。ネパールを選んだ理由は、まずこれまでネパールのプロテスタンティズムについての研究がほとんどなされてこなかったためであり、また「宗教(religion)」概念と現地の「宗教(dharma)」概念のずれという人類学および宗教学のより一般的な問題系にも取り組むことができるのではないかと考えたためです。
なぜ一橋社会人類学を選んだのですか?/一橋社会人類学研究室の特徴は何ですか?
ぼく自身が実践できているかどうかは別として、良い人類学とは、事例の緻密さによって地域研究者を唸らせるだけでなく、理論的な主張によって社会学や哲学にすら問いを突きつけうるものなのだと考えています。そうした意味においてバランスが良いのではないかと思い、一橋社会人類学研究室を選択しました。
一橋社会人類学研究室の特徴は、修士の頃から「研究者」として扱われることだと思います。そのため講義やゼミは、先生が一方的に知識を伝授するというよりは、先輩や同僚と議論する場だと考えた方が良いと思います。
一橋社会人類学研究室に来て良かったことは、先生同士の、また学生同士の仲が良いことだと思います。「仲が良い」ということは、単なる「仲良しサークル」という意味を超えて、研究にとってはたいへんに重要です。とりわけ大学院生のうちは、ゼミの外でもアイデアを出し合ったり論文の読み合わせをしたりする作業が不可欠です。一橋社会人類学研究室は、そのための環境をたしかに提供してくれます。
フィールドワークで苦労したこと、フィールドワークの醍醐味は何ですか?
フィールドワークで苦労したことのひとつは友人関係です。ネパールにおいて「純粋な友人関係」など、ごく一部の例外を除いてほとんど期待できないというのがぼくの実感です。友人になると、さまざまな便宜提供や貸金を求められるようになるのが当たり前です。だから外国人宣教師の中には、「長い間ネパールに住んでいるのに友人は一人もいない」と嘆く人すらいました。要するにネパールでは、友人関係が他の社会関係と切り離されていないのです。そうした中を器用に生き抜く術を身につけようと、面白がりながらも四苦八苦してきました。
ぼくにとってフィールドワークの醍醐味は、「観察者」としてだけでなく「生活者」として(先に取り上げた友人関係を含む)さまざまな生活形式のずれと本気で取り組まざるをえなくなるという点にあります。自分自身がどれだけ「現地の生活者」足りえているのか、反省の余地はもちろんあります。現地の人々からも、「外国人だから」と赦されている面が多分にあるのかもしれません。それでも、できる限り現地に馴染もうとする中で手にした泥臭いがゆえに愛着のある事例をデータとして議論を組み立てることを許してくれることが、人類学という学問の良さの一つだと考えています。
研究キーワード
ネパール、キリスト教、プロテスタント、宗教、ダルマ、信仰