「愛の『自由』を社会科学する」

日時:2010年1月22日(金)  

時間:16:00から

場所:一橋大学東本館大教室

発表者および発表タイトル:
■箕輪理美(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
「『自由な』愛とは何か?―19世紀後半におけるフリー・ラヴ運動とアメリカ社会」
■深海菊絵(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
「複数愛という関係性―米国におけるポリアモリー実践者たちの事例から」
コメンテーター:
○嶽本新奈(一橋大学大学院言語社会研究科博士後期課程)
○上村淳志(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)

■セミナー主旨
今回の一橋セミナーでは、「自由」と「愛」をキーワードに、歴史学、人類学、といった学問領域の異なる二人が発表する。両学問領域において、「愛(love)」は、これまで十分に議論されてきたとは言い難く、「愛」を主題として正面から取り組む研究がみられるようになったのは、1990年代以降である。「愛」に関わる事象の研究が、なおざりにされてきた理由として、「愛」というターム自体の扱いにくさがあげられる。同じことは、「フリー・ラヴ」にも言えることである。両者の発表が、ともに、「自由」な「愛」に関わる実践についてであるにもかかわらず、本セミナーのタイトルを「フリー・ラヴ」とすることができないことからも明らかである。両者の発表は、「自由」な「愛」に関わる実践の担い手である人々にとって、「自由」な「愛」がどのようなものとして捉えられているのか、という問いから出発する。前者の発表では、その「自由」な「愛」を求めた人々によるフリー・ラヴ運動を、アメリカ社会との関係で検討する。そして、後者の発表では、「自由」な「愛」を求めるポリアモリー実践を、その特徴と実践における人々の関係性から検討する。「愛」の「自由」、あるいは、「自由」な「愛」、に光を当てることで、なにが明らかになるのだろうか。本セミナーは、「愛」に関わる事象を研究することの困難や問題点だけでなく、意義や可能性を、学問領域を越えて共有することを目指そうと思う。

■発表要旨
「『自由な』愛とは何か?―19世紀後半におけるフリー・ラヴ運動とアメリカ社会」
箕輪理美(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
本報告は、1850年代以降から20世紀初頭にかけてアメリカ合衆国に登場したフリー・ラヴ(free love)運動を研究する歴史学的意義と困難を検討するものである。フリー・ラヴァーは、既存の結婚制度は自然な愛情を抑圧し、女性を男性に隷属化させる「性的奴隷制」もしくは「合法化された売春」であると批判し、政府・教会からの介入を受けない、より自由な性的関係を求めた。フリー・ラヴ、もしくは特定のフリー・ラヴァーに関する研究は近年蓄積されつつあるものの、フリー・ラヴ運動を研究する上ではいくつかの課題があり、その内の最も根本的なものは、「フリー・ラヴ」とはどのような思想だったのか、誰が「フリー・ラヴァー」だったのかという定義上の合意がないことである。フリー・ラヴァーの唱えた「自由な」愛とはどのようなものであったのか、またそれに関して運動内部でどのような意見の相違があったのか。さらに、アメリカ社会はフリー・ラヴをどのように捉えていたのか、それはどのような意味を持っていたのか。フリー・ラヴが持った多義性に焦点を当てることにより、当時のアメリカ社会のジェンダー・セクシュアリティのあり方を考察する。

「複数愛という関係性―米国におけるポリアモリー実践者たちの事例から」
深海菊絵(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
本発表では、米国におけるポリアモリー実践が形づくる「ポリアモリー関係」を人類学的視点から考察する。ポリアモリー(polyamory)とは、「複数の者を同時に『誠実』に愛する実践」、であり、また、その実践者を指す。ポリアモリー関係とは、愛する者同士の二者間と愛する者を介した二者間の関係から成る、三人を最小単位とした関係性である。実践者たちの間では、一夫一婦制度に囚われるのではなく、自らの意志によって自らの愛のスタイルを選びとることが重要である、という共通認識がみられる。では、その既存の結婚制度から解放された「ポリアモリー」とは、どのように実践されており、実践者たちは、いかに「ポリアモリー関係」を築いているのだろうか。本発表では、ポリアモリー実践の特徴を検討するとともに、愛する者同士の関係性や愛する者を介した関係性、を実践における工夫や実践に伴う葛藤の事例から考察する。